結婚相手の素行・身辺調査の注意点について解説します
まずは、相談事例で検討してみましょう。
1人娘が、交際して間もない男性と結婚したいと言い出してきました。
親としては、その男性の学歴・勤務先などでの評判などを知りたい。
探偵に調べてもらいたいと考えていますが、この場合、問題はあるのでしょうか?
プライバシーを不当に侵害しないよう配意する必要がある
親が、子どもの結婚相手について何も知らない場合、
・相手がどのような人物か
・どのような経歴の持ち主か
・周囲からどのような評価を得ているのか
などについて、しっておきたいとの気持ちになるのは自然なことです。
しかし、これらの情報は、その相手にとっては、プライバシーにかかわる情報です。
そのため、調査を行うにあたっては、相手のプライバシーを不当に侵害しないよう十分配意しなければなりません。
プライバシー侵害の判断基準
探偵に依頼して調査をしてもらう場合、その調査が、調査対象者のプライバシーを侵害するかどうかは、次のような点を総合的に判断することとなります。
➀ 調査の目的は正当か(公益性などがあるか)
➁ 調査の必要性はあるのか
③ 調査方法が平穏なものであるか
④ 何を調査するのか(センシティブ情報(機微情報)なのか)
⑤ 調査対象者は誰か
事例のケースは、娘の結婚相手に対する調査で、全く関係のない他人とは異なります。
子どもが結婚する相手ということであれば、調査の必要性もある程度高いといえます。
まず、➀、➁、⑤については、問題はないものと思われます。
そこで、③、④については、問題になると考えられます。
調査方法が平穏なものか
具体的な調査方法としては、
・結婚相手の近所の人や友人への聞き込み調査
・勤務先への聞き込み調査
などがあげられます。
近所の人や友人、勤務先への聞き込みについては、探偵が自らの身分、調査の目的を明かしたうえで、平穏に聞き込みを行います。
そうすれば、調査対象者の社会的地位・名誉を害されず、許されることになるでしょう。
しかし、探偵業者が身元を明かさず、聞き込みをした場合には、調査対象者の社会的地位・名誉を害したとして違法となった事例もあります。
探偵業者が、身元を明かさず、調査対象者の顔写真を見せて、どのような仕事をしているのか、何時頃帰宅するのか、近所住民に聞いて回ったため、調査対象者が刑事事件を起こして警察が聞き込みをしていると思い込んでしまい、調査対象者の名誉が害された事案です。
これを受け、京都地裁では「興信所の調査員が依頼された事項を調査する際には、調査対象者の社会的地位や名誉信用をき損しないよう最大限の配意をすることは勿論のこと、自分の身分を明かしたうえで第三者の協力を求め、それで協力が得られない場合には、調査依頼事項に相当する他の適当な調査方法を見出して調査を進めなければならない注意義務があると解するのが相当」としたうえで、探偵業者に損害賠償を命じる判決を出しました。(京都地裁昭和46年8月23日判決・判例タイムズ267号270頁)
何を調査するのか
一般的に名前や住所など、ある程度公開され、周辺に知られていることが当然である情報については、問題となることが少ないでしょう。
一方、センシティブ情報といわれる、通常、一般には他人に知られたくない情報は問題となります。
たとえば、
・身体や精神障害に関する情報
・政治活動や信仰などの内面に関する情報
などについては、これを調査対象とすることには問題があります。
これら情報は、自分での努力では改善できない事項であったり、これを他人に知られてしまうことで著しい不利益を受ける可能性がある事項であったりします。
そのため、これらの情報を特段の必要もないのに収集しようとすること自体が、問題視される可能性があります。
まとめ
探偵に調査を依頼する場合には、その調査が調査対象者の社会的地位・名誉を害さず、平穏に行うのであれば、問題はないでしょう。